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自身のツイッター内容のまとめ (脱出駅 EPISODE 4)

過労自殺は「劣悪な労働環境」が全てなのか?

皆さんこんにちは。

 

2017年3月2日。

新国立競技場の工事現場で働く23歳の現場監督が突如失踪し、同年4月15日に長野県内で遺体となって発見された、というニュースが報じられました。過労自殺でした。

その一報を聞いて、同じ現場監督(4年目)として、正直、はらわたが煮えくり返る思いでいっぱいです。申し上げたいことが沢山ありますが、要点を絞ってその思いをぶつけさせて頂きたいと思います。

 

テーマは次の2点に集約されます。

 

  • 「段取りよく計画を立てる」ことがいかに大切なのか?
  • 建設業界において「契約を結ぶ」とはどういうことか?

 

の2点です。

 

それでは始めます。

 

◎マイホーム購入って、どんな流れなの?

 

まず、事件の話題から大きくそれますが、「マイホーム購入」の話からさせていただきます。私の申し上げたいことに、直結するコトなので、少し説明させて下さい。

 

皆さんは「マイホーム購入」のご経験がおありでしょうか? または1度でも検討されたことがありますか? そして「どのような流れでマイホームが出来るのか」ご存じでしょうか?

説明のために、大まかな流れを以下に示してみます。

 

1.相談・見積(無料)

2.契約

3.詳細のプランニング(契約工期内)

4.施工(契約工期内)

5.完成

 

※「完全フルオーダーメイド」のマイホーム建築の場合です

 

地域・施工会社によっても異なりますが、まず、どんな家が欲しいのか? をヒアリングします。次に、お客様のオーダーに沿った図面を作成して、見積もりをお客様に提出する。で、詳細の部分については「一度契約させていただいて、後は工事を進めながら決めていきましょう、それで宜しいですか?」というのが一般的な流れです。

いくら「相談・見積無料」と謳っていても、モノには「限度」というものが当然あります。

仮に2時間の相談回数が5回だとすれば、10時間となります。見積は新規で1回行った場合、2~3日程度かかります。場合によっては、他の現場、他の案件を止めて進めなければならない場合もあります。

建設業界には、これだけの量を「無料でやる」という慣例があるのだ、ということです。どうです? みなさんは、やってみたいですか? 勿論やってみたいとは思わないですよね? なので「相談・見積無料」が常識であり、慣例であり、実際その通りであることは事実ですが、会社側としては「なるべく省略したい」「とりあえず契約したい」というのが本心です。

 

しかし、それがまた新たな問題点を引き起こしています。

 

マイホームの工期は(規模にもよりますが)大体3~4か月程度です。しかし外壁やサッシなどは納期が3~5週間程度かかりますので、実質上は着工後2か月以内には、ほぼ全て決まっていないといけません。工期延長、すなわち契約を守れないリスクが大きくなるからです。

さて、ここで皆さんに質問です。「一生に一度のマイホームが欲しい」その思いをぶつけるために、契約からわずか2か月という短い期間内で、貴方の満足できるプランは完成しますか? 私がお客様の立場だったらとても自信がありません。

そして、それは施工会社側にとっても負担が大きいものです。

 

契約とは、一種の「法律行為」です。工期が守れなかった場合、お客様に違約金を支払わなければなりません。もしそうなると完全に赤字になるどころの話ではなく、完全なる「信用失墜」です。それはあっという間に「倒産」に追い込まれる、ということです。しかし、お客様が「一生に一度のマイホーム」という強い思いから細部にこだわりすぎて、なかなか決まらない。その間、お客様に気をつかいながら、いたずらに限られた工期が消費されていきます。次第に工期に余裕がなくなります。お客様のこだわりに比例し、施工会社側には多大なる負担・プレッシャーがかかります。加えて「内容の大幅な変更」がかかろうものならそれはもう大変です。現場の職人も混乱し、次第にモチベーションも下がり、「納まり」等において思わぬトラブルが発生したり、そうやって現場はグチャグチャになっていきます。その結果、素晴らしい建物が完成するのか?・・・そんなワケありません。

 

お客様が満足できるマイホームを作るためには、

 

「入念な計画・段取りを効率よくかつ完璧に行ってから、施工に入る」

「やや余裕を持たせて工期を設定し、品質管理を徹底の上、お客様のためにも、施工費を最小限に留める」

 

それがなによりも大切です。しかし、現実的にはそれが出来ていません。それはいったい何故か?

 

話の流れで何となく見当がつくかと思いますが、私が注目したのは「相談・見積無料」という慣例です。

「相談・見積無料」という慣例は、一見お客様にとってやさしいサービスなようでいて、実はお客様の満足度も上げられない、施工会社側の負担も増える、という両方にとってLOSE-LOSEなシステムなのではないか?というのが私の考えです。

マイホーム建築の流れを改めて整理すると、こうなります。

 

1.「相談・見積無料」という「慣例」に従って営業する。

2.でも本心は人件費の膨大な負担をなるべく減らしたい。

3.なるべく相談・見積回数を少なくしようとする。

4.とりあえず契約し、細かな部分は契約してから決めれば良い、と考える。

5.契約する。

6.契約によって工期が定められる。

7.工期が定められたがために、お客様には十分に検討する時間がない。

8.お客様は工期ギリギリまで粘る。

9.工期がギリギリになって、施工会社に多大なプレッシャー・負担がかかる。

10.完成はするが、良い建物が出来るハズもない。

 

以上が、現代において割とありがちな、本当の、リアルなマイホーム購入の流れです。

 

マイホーム購入の流れは分かった。

 

で? 結局何が言いたいの?

 

というところですが、

 

要するに、現状の建設業界のシステムでは「効率的かつ完璧なプランニングを完了した上で施工に入ることが出来ない」「故にWIN-WINの関係になる契約を結ぶことも出来ない」ということ。そしてそれ以上に、その2つの問題によって「様々なトラブル・事故を誘発している」ということを私は強く申し上げたいのです。

 

過労自殺の原因って「劣悪な労働環境」が全てなの?

 

さて、ここから本題です。

 

2017年3月2日、新国立競技場の工事現場で働く23歳の現場監督が突如失踪し、4月15日に長野県内で遺体となって発見された、というニュースが流れました。

 

「死」という重い現実が、マスメディアにより前面にセンセーショナルに報道されるため、どうしても「労働環境」が「問題の中心(クリティカル)」になりがちです。しかし、クリティカルは別にある、というのが私の意見です。

大成建設の現場の労働環境は、早急に改善されなければならない」

という意見は決して間違っていないと思います。しかし、

大成建設の現場の現状の労働環境が、この問題のクリティカル」

という意見は、私は反対です。仮に労働環境を改善したとしても、何ら根本的な解決にならないというのは明らかだからです。

 

それは先述したようなことです。今回の件にあてはめてみると、

 

・新国立競技場はどのような過程でプランニングが行われていたのか?

・そもそも2017年7月24日時点、細部も含めてプランニングは完了しているのか?

・新国立競技場の建設の契約は「WIN-WIN」の関係になっていたのか?

 

これが3つとも「全く問題ありません」というのであれば、23歳という若い現場監督が命を落とす可能性は限りなく低かった、と私は思います。一体なぜ、そう結論づけられるのか? そもそもなぜ200時間を超えるような残業が発生したのか? なぜ現場監督の増員が出来なかったのか??

 

これから1つ1つ検証していきます。

 

ニュースの中ではタイトなスケジュールな上、さらに「重機の搬入が遅れた」という報道がなされています。まず、ここに注目です。

(掲載元:BUZZ FEED JAPANーyahoo!ニュースより)

headlines.yahoo.co.jp

 

 

レンタル業者さんは、忙しい時は3か月以上もレンタル予定が埋まっている場合があります。「土壌改良で使用する重機」となると、1つの現場に対してのリース期間がどうしても長くなります。新国立競技場の土壌改良となりますと、さらに膨大な重機の数が必要になると予想されます。したがって「計画できたから、すぐ手掛けてくれ!」と言われても、数が揃わないと、直ぐに着工出来るものではありません。ちなみに、いつプランニングが完了するかも分からないのに「計画完了と同時にいつでもスタートダッシュが出来るように膨大な数の重機を待機させておく」ほどレンタル屋さんもヒマではありません(そんなコトをしたら、重機レンタル屋さんが倒産してしまいます)。当然、これは作業員についても言えます。「新国立競技場を工事しなければならなくなった!すぐ来てくれ!」といったところで、今担当している現場を一時中止にしたり投げ捨てることは断じてできません。それは「現場監督」自身にも当然該当する、ということです。増員してくれ!といって、簡単に増員出来ない事情があるのです

逆に言えば、それほどまでに工期がタイトだったこと、余裕が無かったことが容易に想像できます。

 

次に。

今回亡くなられた方は、大成建設の社員ではなく、下請けの専門業者さんだったそうです。そうなると、また1つ疑問点が浮かび上がります。

 

大成建設と下請け業者さんとの間の契約は金銭的にムリが生じていなかったのか?」ということです。これは即ち、「国と大成建設との間の契約で金銭的なムリが生じていなかったのか?」ということでもあります。

計画が二転三転していく内に、工期がタイトになるであろうことは想像できたハズです。

短い工期で国内でも過去に例がない難しいプロジェクトだが、新技術を駆使して工期内に完成させる決意だ」

少なくとも大成建設の山内隆司会長はインタビューでそのような回答をされています。

(掲載元:日本経済新聞より)

 

www.nikkei.com

 

 

そもそも「工期がタイトになる」ということはどういうことか?

 

当然、見積の中に監督・作業員の増員分、仮設資材の増量分を含めなければなりません。突貫工事となると、当然その分の値上げも必要です。計画が二転三転するようなバタバタ劇の中で、そこまで確実に検証されたのかどうか? 下請け業者分まで確実に検証されていたのかどうか? 信じたくはないですが、ムダを省くという国の方針が強すぎて、国からの圧力はなかったのかどうか? ハッキリ申しまして、私としては甚だ疑問です。

 

最後。

現場では「指示を受けた数時間後には、内容は既に変更されているような状態」という報道もなされています。これはどういうことか?

(掲載元:TBS系JNNーyahoo!ニュースより)

headlines.yahoo.co.jp

 

先述したマイホームの話、思い出してください。

過不足なく決まっていれば、後は「工期内に決定した内容の工事を施工するだけ」のハズです。しかし、実際の現場ではそれが二転三転している、ということは「工事内容がまだ決定していないけれど、もう工事を始めないといい加減間に合わないから、とりあえず契約した後に、工事を進めながら決めていきましょう」という流れではないか? ということが容易に想像できます。

 

今日7月24日付で、オリンピックまで残り3年となりました。

もう、時間がありません。とりあえず契約しました。しかし、まだ未決定の部分がたくさんある。後は工事を進めながら決めていきましょう。

・・・ああでも、工事内容、やっぱり変更したいな! なんといっても4年に1度の悔いは残したくない! 東京オリンピックがいかに素晴らしいかを証明しないといけないからな!

この流れ、まさしく「マイホーム建設」と全く同様の流れです。

こうして、土壌改良工事の段階で早くも施工内容の変更がかかっている現実を考えますと、少なくとも建物の主要な部分がまだ完全に決定していない可能性が高い、ということを意味しています。つまり「計画が1年伸びた」のではなく、実際は「1年経った今でも、全然決まっていない箇所が多々ある」ことが予測されます。「マイホーム建設」と同じ事象が、新国立競技場という大規模なクラスで起こっている、ということです。

 

以上の検証内容をまとめて、私の意見を、ド直球ストレートに申し上げましょう。

 

血税」が使われている為、金額は極限までケチられている。

東京オリンピックという4年に1度の世界イベントが控えている。

プランニングにモタつき、約1年も時間を食いつぶした。

それでいて未だに「計画の全てが完了していない」疑いが極めて強い。

 

このような条件下で結ばれた契約など、WIN-WINになっているワケがありません。起点からすでに狂っているのです。

 

何度も申し上げますが、ここまで現場が混乱してしまった事実は、現状の建設業界のシステム下では「効率的かつ完璧なプランニングを完了した上で施工に入ることが出来ない」「WIN-WINの関係になる契約を結ぶことも出来ない」、そしてそのあおりを受けて「様々なトラブル・事故を誘発している」ということを証明しています。

 

これは、今回の「新国立競技場工事の現場監督の過労自殺」の件にとどまらず、他の工事現場に関しても言えることです。

 

「マイホームが完成しても、お客様の満足度が得られない」という、慢性的な問題については先述の通りですし、

 

「築地・豊洲移転問題」についても、

 

「A・元一級建築士による構造耐震偽装問題」についても、

 

「結果・トラブル・問題点・事故の現れ方」が異なるだけで、根本は同じ。

真実の問題のクリティカルは「計画から契約に至るまでの過程」だと私は考えます。

 

今、躍起になって「工事現場に問題はなかったか?」などと国の方で動いているようですが、私から言わせてもらいますと、腹立たしいまでに白々しいのです。

 

大多数の方は、この問題のクリティカルは「現場の労働環境」だと思っておられるでしょうし、メディアもそう書くでしょう。その方がシンプルだし、深く考えなくてもイイし、故に視聴率も稼げるし、何よりも楽だから

でも、それだけではいつまでたっても、建設業界はよくならないし、あらゆる業界の過労死・過労自殺はなくなりません。あらゆる工事現場の実情を知る人間の1人として、私はそう確信しています。

 

「株式会社電通」の女性社員が自殺してしまった事件を引き合いに出す人もいますね。当時は私も情報の表面でしかとらえられず、真実が見えませんでした。しかし、今回の事件を通して「もしかしたら、電通の問題も単純ではない。広告業界の根底にかかわるような、もっと根本的な問題が眠っているのかも知れない」と最近思うようになりました。劣悪な労働環境も決して許しがたく、無視できませんが、それ以上の闇がココに潜んでいるのではないか? と想像してしまうのです。

 

建物を建てるという行為に携わってきた人間は、昔から、私が生まれるはるか以前から、そういった問題にただひたすら耐え忍びながら、そして数多くの犠牲者を出しながら、建設業に従事してきました。

 

皆さんの住んでいらっしゃる街には、どんな公共建築物がありますか? どんな商業施設がありますか? どんな高層テナントビルがありますか?

 

街中の建築物が目に入ったとき、一瞬でもイイから、「今までに数々の犠牲があった末に今の建物がある」という現実を、ほんの少しだけ思い出してあげてください。新国立競技場が完成し、それを見る機会があったら、工事途中で23歳の現場監督が若くして犠牲になってしまったという重い事実、一瞬でもイイから思い出してあげてください。

 

そして、今回の事案も、その歴史の流れに沿うように。

最終的には、大成建設や、その下請け会社が責任を背負うことになると思います。

そして、お客様(国)はなんのお咎めもなしに、腕を組んで、ただひらすら左うちわで、東京オリンピックまで待機するだけです。

 

そうして、

 

新国立競技場の工事は、今も淡々と動き続けているのです。

 

私は、

 

3年後の東京オリンピックの時、この惨劇があったことを絶対に忘れません。

 

 

 

2017年7月24日

東京オリンピックを3年後に控えた日に)

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